ピラミッド:数値編
ピラミッドには神聖な数字が隠されてるという考えは、1800年代中盤に出版社の経営者ジョン・テイラーの思いつきから始まった。
エジンバラ大学の教授 チャールズ・ピッツァ・スミスがその考え方をさらに飛躍させて、今のピラミッドの神秘につながっている。
この話は、見つかったピラミッドの囲み石の幅でピラミッドの底辺の長さを割ると365、つまり1年の日数になることを発見したことから始まった。
スミスはこの石の幅が大きな意味を持つと考えた。石の幅は25インチよりも僅かに長い。[1]
このことから、これを25等分した長さを新しい長さの単位と考えて“ピラミッド・インチ”と名付けた。この新しい“ピラミッド・インチ”は、地球の極半径の1000万分の1に等しい。
大ピラミッドの高さに10の9乗を掛けると、地球から太陽までの距離にほぼ等しい距離が出る。
他にも、ピラミッドの様々な部分の長さなどを、計算・操作すれば地球の平均密度や地表の平均温度、地軸の歳差運動の周期などなどが導けることを発見した。
大ピラミッドの底辺の2倍を大ピラミッドの高さで割った比はπ(円周率:パイ)に一致することを見つけた。
これらのことから、今ではピラミッドは「高度な数学の知識や科学知識をもった者が、その知識を埋め込んで設計・建設したものだ。」という話が出ている。中には現代の科学より進んだ知識をもった…という話をする人もいる。
さて、本当にそうなのだろうか?
まず、この話とピラミッド・インチの元となる“囲み石”について。実は、スミスがこの話を出したときに発掘されていた囲み石は、ほとんどなかった[2]。後にいくつかの囲み石が発掘されたが、その幅はそれぞれ全然違っていた。
つまり、365日とかピラミッド・インチとかは、最初に“たまたま”そのような大きさの石があっただけと考えるのが妥当だ。
だが、スミスの“神秘的な数字の発見方法”の方が問題だ。
スミスの時代にはピラミッドの測量は正確なものではなかった。最も基本的な底辺の長さすらピラミッド学者の間で一致していなかった[3]。
スミス以後の正確な測定でも、調査者の間で食い違いが見られる。
スミスは、これらの数字からどのようにして自分の計算に用いる数値を得たのか?そこにトリックがある。
あるときは、異なる調査者の結果のなかから、任意にひとつの数値を選んだ。またあるときは、異なる調査結果の平均をとってひとつの数値とした。またあるときは、自分で新たに測定した値を使った。
つまりスミスは自分で好きな数字を選べたというわけだ。
その測定値から計算された科学的数値の方はどうだろうか?
これも何を選んでもいい。地球の自転周期を秒で表したものを選んでもよければ、分で表したものを選んでもいい。太陽までの距離なら、最も太陽から離れているときの距離でもいいし、最も近づいているときの距離でもいい。はたまた平均をとってもいい。
太陽までの距離で一致が見られないようならば、月までの距離でも良かっただろう。一番近い恒星までの距離でも良かったかもしれない。
単位もピラミッド・インチで Xインチでもいいし、kmでも構わない。光の速さで Y秒なんてのもありだ。
さらには“10の9乗を掛けると”のように、全く関係ない計算まで入ってくるのだ。
スミスが20年も掛けて、この作業を続けたことを考えれば、一致する数字が見つからないことの方がありそうもないことである。